NPO日本移植支援協会

専門家の意見

藤田 士朗 先生

小美玉市医療センター
院長
湯沢 賢治 先生

臓器提供と臓器移植

臓器移植法が1997年に施行され、すでに四半世紀が経過しました。法律が施行されたときには、これで日本も欧米並みに臓器移植が行えると、移植関係者は希望に胸をふくらませ、多くの臓器不全の患者さんたちは生きる望みを得たものでした。しかし、脳死下の臓器提供は増えませんでした。臓器移植法が2010年に改正、施行され、僅かながら脳死ドナーは増加し、ごく少数であった心移植、肝移植などが可能となり、2011年からは小児からの提供も報告されました。けれども、その数は微々たるものです。ここ20年余り臓器提供者の総数は約100人程度で、大きく増えてはいません。日本移植学会として、手をこまねいていた訳ではなく、多くの議論と努力がされてきました。

1997年に臓器移植法が施行され日本臓器移植ネットワークが出来る前には、移植医が個々に救急病院などを回り、臓器(当時は腎のみ)提供をお願いして歩いていたものです。1989年には261人の献腎移植(亡くなった方からの腎移植)が行われています。当時、提供者の統計はありませんでしたが、最低でも131人からの提供があったことになり、提供者は現在より多かったのです。日本臓器移植ネットワークが組織されてからは、移植医からの直接の働きかけは出来ませんが、日本移植学会として提供側の医師、関係学会に働きかけてきました。その時に移植医は常に「臓器不全の患者さんを救うために臓器提供を」とお願いしてきました。しかし、一向に臓器提供者数は増えませんでした。

2015年に日本移植学会の理事長が江川、副理事長が湯沢となり、この提供側の医師、関係学会として日本救急医学会、日本脳神経外科学会、日本集中治療医学会などへの働きかけを変えました。それまで、前述のとおり提供側の医師に「臓器不全の患者さんを救うために臓器提供」と言って来ましたが、それは提供側の医師の目に見えませんし、いわば移植医側の都合です。

それでは臓器提供は増えないことに気が付きました。国民の60%が死後の臓器提供を受け入れていながらも臓器提供が増えていないのは、提供したいという意志を生かせていないからです。臓器提供は、提供側の医師の診ている目の前の患者やその家族の尊い「臓器提供の意志」を生かすためなのです。ここ5~6年間、日本移植学会では、亡くなっていく人の意志を生かすために関係学会と連携し、学会間で共同シンポジウムなどを開催してきました。最近、尊い臓器提供の意志が生かされてきており、その成果が多少現れてきています。 臓器提供者は増加してたものの、2020年には新型コロナウイルス感染症で減少しました。しかし、2023年にはこれまでで最も多くなると思います。

なぜ増えないかを考えるより、どうしたら亡くなっていく人とその家族の尊い意志を生かして臓器提供に結びつけていくかを考えたいものです。

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