NPO日本移植支援協会

専門家の意見

星野 健 先生

自治医科大学附属病院
移植コーディネーター
吉田 幸世 さん


2013年

「小児肝移植の現状と課題」
   ~移行期支援の重要性~

 1989年に本邦で初めての肝移植が施行されて以来、移植医療は飛躍的に進歩してきました。小児肝移植は、もはや救命から長期予後向上や社会的QOLの向上が第一の目標となりました。

私は、2010年12月から自治医科大学附属病院のレシピエント移植コーディネーターとして、肝移植を必要とする患者や家族の支援をしています。当院は2001年に小児に特化した肝移植施設として開設しました。現在、肝移植後通院している外来患者数は約300名(他院で移植を受けられた患者も含む)そのうち15歳以上の患者は、約100名になります。開設後12年の歩みの中で、小児期に移植を受けた患者も成長し、青年・成人期に移行する患者が増加しています。小児に特化した肝移植施設も変遷の時を迎え、小児期のフォローだけでなく移行期支援の問題や対応も課題の一つです。

乳幼児期に肝移植を行う場合、患者に代わり家族の意思決定により移植医療が選択されることになります。肝移植により、臓器不全の状態から脱した多くの患者は、同年代の子どもと同じように成長し、社会生活を送ることができるようになります。その生活を維持するためには、長期的な自己管理(免疫抑制剤の服用、継続外来通院など)が重要になります。幼い頃は、自分の病気や治療を理解し、自己管理することは難しく、家族が代行し療育します。しかし、子どもの成長・発達に合わせ、子ども自身が理解し、自己管理できる事を少しずつ教えていかなければなりません。家族、医療者、学校、社会など周囲の関わりが、移植を受けた子ども達の自己管理能力を育んでいくことになります。

現在、移行期支援は、小児肝移植領域だけでなく、小児領域全体で取り組んでいる課題になります。青年・成人期になることを見据えた関わり=『移行期支援』が、患者の長期的な健康を守る上で重要な意味をもちます。しかし、こうした小児期から成人期への移行期には多くの問題があります。
① 医療者側の問題:外来場所や入院病棟などの医療資源の問題。成人科への引継ぎのタイミング。成人医療スタッフの受け入れの不十分さ。
② 患者家族問題:思春期の精神面でのフォロー、親と子の関わり方。内服自己管理。怠薬の問題。継続外来通院。妊娠出産時期。
③ 社会的問題:学校生活・職場への受け入れ。周囲の理解。

慣れ親しみのある小児領域から、新たな成人領域へ円滑に移行できるよう、これら全体の「移行期支援」を私たちコーディネーターが調整していくべきであり、その責任は重大です。当院では、小児専門看護師、地域と病院を連携する看護支援室の看護師、臨床心理士など、移植チーム以外のスタッフと積極的に連携することで移行期支援の問題や課題に取り組んでいます。互いの専門性を生かす事により、患者・家族への支援内容が深まり、より広い視点で対応することができます。また、今年の患者会でも『移行期支援』をテーマに掲げ、患者・家族と共に移行期支援について考えました。患者間の交流、情報交換は、これから移行期を迎える患者・家族の励みや問題解決のきっかけにもなりました。

小さい頃から肝移植という大きな手術を乗り越え、移植後の自分と向き合い続けている子どもたちには、これからもたくさんの未来があり、その明るい未来に向かってどんどん挑戦してほしいと願っています。そして、私たち、移植医療に携わるものは、今後も長期予後の向上を目指し、社会に移植医療の現状を理解してもらえるよう働きかけていく事が責務だと思っています。

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