NPO日本移植支援協会

専門家の意見

上野 豪久 先生

大阪大学医学部付属病院
小児外科医院
(平成18年)
上野 豪久 先生

はじめに

私は、昨年末に帰国するまでダラスのベイラー大学医療センター、マイアミのジャクソン記念病院にて、移植外科のフェローとして4年ほど働いてきました。最初の3年間はダラスにて大人の肝移植、腎移植に携わり、後の1年間はマイアミで、子どもの肝移植、小腸・多内臓移植に携わってきました。ドナーの善意によって、魔法のように患者さんを治すことができる移植は私にとって非常に魅力的であり、尊敬する師匠にも恵まれ、移植医療の最前線を学んでくることができたと思います。

海外で移植を受けるということ

その中では日本からいらっしゃる患者さんのお世話をさせていただくこともありました。もちろん多くの患者さんは無事に日本に帰ることができました。近年では海外で移植をするということが一般的になったのか、日本で報道されることもしばしばあります。

しかし、患者さんとその家族は言葉に表せないような苦労があります。日本にいても見知らぬ土地で医療を受けるのは気がひけるのに、まして言葉の通じない外国でのことです。最近の厚生労働省の報告でもあったように、中国での移植などは倫理的な面もありきちんとした経過観察がなされていないのが実情のようです。もっとも、そんな過酷な海外での移植医療の現場でも、日本で、また現地で日本移植支援協会のような大きな団体から、それこそ個人レベルまで多くの方が支えてくれていました。

ダラスでは以前移植を受けられた日本人の牧師さんを縁に、日本人教会の方々がボランティアで非常に献身的なケアをされていました。日本では海外の移植で成功した例を多く報道していますが、その中には不可抗力な合併症で亡くなられた方もいます。せっかく移植にこられても奥さんが遺骨を胸に帰国しなければならないということもありました。米国では外国人が移植を受ける事に関しては、地元の報道も含めて比較的好意的に取られています。特にダラスやマイアミは外国人が多いこともあり、このあたりは好意的だったのかもしれません。

日本での移植

日本に帰国してからは小児の移植に携わっていますが、当然のごとく生体肝移植を行っています。今まで、脳死肝臓が前提の移植にのみ携わっていたので、生体肝移植というものが自然に受け入ているのは、感動的なものでした。日本の患者さんたちからは「海外に行く人たちにはあんなに募金が集まるのに、なぜ私たちには集まらないの。」という声を聞きます。たとえば日本で小腸移植を受けようとしても、あんなに募金が集まるかどうかが疑問です。

最近の海外での移植に対しての募金の集まり方を見ると、決して移植の関心が低いわけではないと思います。これだけの関心があるのならば、その関心を国内で移植することに向けることは決して難しいことではないと思います。今後、国立大学の民営化に伴って従来のように公費にて移植をすることは難しくなってくるかと思います。そのため、小腸移植などは経済的な負担のため実質上断念しなければなりません。この点においても、何らかの経済的援助を行う必要があるかと思います。

脳死と臓器移植

3月末には、臓器移植法案が再提出されました。小児移植に携わる私としては小児の臓器提供ゆるす法律改正は是非とも実行してもらいたいものです。脳死を人の死とすることには今でも根強い反対があります。移植医療や脳死への無理解があるといわれていますが、最近のドナーカードの普及率を考えると、一般の方々の脳死への無理解というよりは、医師や看護師など医療従事者の側に十分な理解が無いと思われます。

実際最近の厚生労働省の調査でも「脳死を人の死」と認めている医療従事者は4割程度であり、一般の人への理解を求める前に、医療従事者への教育が必要になっているかと思います。この点においては、アメリカでも臓器バンクの職員がICUや救急を回って啓蒙活動に勤めていたことが思い出されます。移植の適応疾患についても、まだまだ一般の外科、内科、小児科の先生方に、どのような疾患が移植適応となるのか理解が得られない場合があると思われます。

日本移植支援協会に望むこと

日本では小児外科の一部として始まった肝臓移植が、移植外科として大人の移植を中心に行われるようになった今日この頃、私としては小児外科疾患の延長として、肝移植、小腸移植を進めて行きたいと考えています。現在、小腸移植が認知されているとは言いがたいですし、小児のドナーが認められていない以上多内臓移植が国内で行われることは残念ながらありえません。小児移植医としては、日本から海外と同様に医療を受けられない子供たちが無くなってほしいと考えています。今後は、国内の状況を改善するために、国内で移植を受けるための経済的支援活動や、移植に直接携わっていない医師と医療機関とをつなぐこと、医療関係者向けの脳死の啓蒙活動などもしていただけたらと思います。

Back