NPO日本移植支援協会

専門家の意見

藤田 士朗 先生

東京女子医科大学病院
院長
田邉 一成 先生

脳死ドナーの確保

本邦における各種臓器移植の成績は世界のトップレベルにあることは良く知られています。腎臓はじめ、心臓、肝臓、膵臓とも10年生着率は90%近く世界的に見ても極めて良い成績です。この良好な成績に、より効果的で副作用の少ない免疫抑制剤の開発が大きな役割を果たしていますが、長期にわたりきめ細かい術後管理が行われていることも長期成績を向上させている重要な要因となっています。私たち東京女子医科大学泌尿器科ではここ10年の腎移植生着率は95%近い生着率となっていますが、術後は患者さんに毎月来院していただき、腎機能はもちろん免疫抑制状態の把握、感染症のモニタリング、予防処置、抗ドナー抗体のチェック、悪性腫瘍のスクリーニングなど細かに管理しています。さらにこれらのデータをもとに術後長期にわたり免疫抑制剤の内服量を微妙に調節するなどのきめ細かな治療も行われています。このようなきちんとした管理は患者さんの日常の健康管理も含めて長期的生着率の向上に大きく貢献しています。

しかしながら、我が国の臓器移植で最も大きな問題となっているのはドナーの絶対的な数の不足です。脳死ドナーの提供数はここの所、全く増加の兆しがなく年間100例を超えることがない状況です。腎移植待機患者は1万数千名であり、事実上、脳死移植を受けられる可能性は非常に少ない状況です。腎移植がある程度献腎でまかなわれるためには年間1500例近い献腎ドナー症例が必要となります。1500人から3000症例移植できますから、5-6年で希望する患者さんが腎臓移植を受けられることになります。1500例のドナーは各県30例となりますから事実上はかなりハードルが高くなります。しかしせめてこの半分、各県15名のドナーが出れば全く状況は変わると思います。

一方で、心臓移植待機患者、肝臓移植待機患者、膵臓移植待機患者は、それぞれ、全国で200-300人であり年間200名の脳死ドナーが発生すれば十分な数の臓器が提供できるのです。このことは生命予後に直接関係する代替えのない臓器ですから非常にインパクトが大きいと思います。200名の脳死ドナーは各県4名のドナーですからかなり実現性は高いと思います。まずはこれら生命に直結する代替えのない臓器移植を生体ドナーに頼らずきちんとできるようになることが良いのではないかと思います。ドナー提供病院のDPC係数を上げるとか何らかの誘導政策があれば進みやすいと思います。 今後は臓器提供に向けて数値目標を挙げた上できちんとした対応が必要かと思います。また、これを実現すべく各自治体での活動が必要で地方の実情に応じた形での臓器提供推進運動が望まれると思います。 まずは年間200例の脳死ドナー提供に向けて運動推進できるシステムの構築が必要かと思います。

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