NPO日本移植支援協会

専門家の意見

星野 健 先生

関西メディカル病院
腎臓病総合医療センター長
高原 史郎 先生

日本の脳死臓器提供は増えるのか?

日本の脳死臓器提供数は人口100万人あたり年間1件前後であり、米国およびEUの1/30以下、隣国である韓国の1/10以下と先進国の中で極めて少ないのが現状です。 では今後、日本の脳死臓器提供数は増えるのでしょうか? その答えは、「臓器提供の可能性のある病院のやる気次第」です。 国の調査でも、日本国民の半分以上は本人及び家族の脳死臓器提供に賛成です。

これは先進国のなかでも高い数値です。 では何故、日本の脳死臓器提供数は増えないのでしょうか?実情は家族への臓器提供の意思確認に至るまでのプロセスで、様々な要因によって、どんどん提供の可能性が無くなってゆくのです。では欧米では出来ているのになぜ、日本ではだめなのでしょうか? まず臓器提供の可能性のある病院(大学病院や救命救急センター)自身が「臓器提供の可能性のある患者には家族への臓器提供の意思確認をしっかりやろう」という強い意思が必要です。

では提供の可能性のある病院の強い意思はどこから生まれるのでしょうか? それは、その病院に対するポジティブ・インセンティブ(意思確認に結び付けようとする積極的な理由付け)とネガティブ・インセンティブ(意思確認をしっかりしないと病院が不利益を被るという危機感)の両方が必要です。ポジティブ・インセンティブの具体例は、保険診療で十分な保険点数が付いて病院の収益に繋がることです。そしてネガティブ・インセンティブの具体例は、病院機能評価で、意思確認をしっかりしないと低い評価となることです。 このポジティブ・インセンティブである保険点数の増点については、欧米に比べて不十分ではありますが少しずつ改善しています。しかしネガティブ・インセンティブである病院機能評価での低い評価についてはほとんど実例がありません。

つまり多くの日本の病院は、家族への臓器提供の意思確認を行わなくても評価が下がることはない、と判断しています。 実は病院機能評価の項目の中に、既に「家族への意思確認」の項目は入っているのです。しかしこの項目が全くと言っていいほど生かされていません。つまり病院の評価に用いられていないのです。 病院にとって、ポジティブ・インセンティブよりもネガティブ・インセンティブである病院機能評価の方がより重要であり、つまり効果が大きいのです。既に病院機能評価の項目に入っている家族への意思確認を実行するだけで日本の臓器提供は大きく進みます。

国の行政(厚生労働省)は意思確認を増やすため様々な努力をしています。たとえば臓器提供のための脳死診断に慣れていない病院には近隣の経験ある病院からの援助を可能にする、という厚生労働科学研究での臨床研究も始まっています。 しかし今の日本でより重要なのは根本的な対策です。そしてその根本的な対策の一つとして、病院機能評価での家族の意思確認を正しく評価することは可能であり、早急の実現が必要です。

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