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国立生育医療センター手術集中治療部
鈴木康之 医師
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私と移植医療のつながり
私が移植医療のことを真剣に考え始めたのは1997年1月に国立小児病院のICUに入室した拡張型心筋症の5歳の利奈ちゃんとの出会いでした。利奈ちゃんは徐々に悪化する心不全の治療のためにICUに入室しました。利奈ちゃんは心不全からくる倦怠感と肺うっ血による息苦しさに必死に耐えていました。それを少しでも楽にしようと我々は強心剤や利尿剤の治療をほどこしましたが、なかなか効を奏してくれません。父親が娘の渡航移植を苦渋の決断した時には、すでに残された時間はごくわずかで、とても間に合う状況ではありませんでした。病状は末期で徐々に悪化し、ICU入室後数日で永眠されました。苦しいと訴えていた利奈ちゃんの姿と移植に踏み切るのが遅かったと悔いる父親の涙を今も忘れることはありません。
その利奈ちゃんとほぼ同時期に拘束型心筋症の5歳のM君が心不全症状の悪化でICUに入室しました。M君は我々の治療が効を奏し、心不全が軽快し、比較的良い状態で渡航移植の準備ができ、渡米することになりました。M君はロサンゼルス渡航後に心臓移植待機患者となり、UCLAで第一回目の心臓移植を受けましたが、突然移植心臓が機能しなくなるという不幸に見舞われました。しかしECMO(人工心肺装置)を装着してICUで約1ヶ月待機しながら再度臓器提供があるのを待ち、再移植を受け、10数回の手術の末、無事帰国を果たすことができました。今も元気に我々の病院に通院し、今年でもう移植後11年となります。
早くから移植を考えたM君は元気に帰国し、利奈ちゃんはICUでなす術もなく、息絶えるという明暗を分けた2名の患者の経験から、私にとっては移植という素晴らしい医療への迷いはなくなりました。私は子どもの心臓移植後の5年生存率80%という数字に興奮し、数千万円や億をこえる多額な医療費や異国の地で治療を受けなければならないという障壁はたいしたことではないと考え、移植医療に対して信頼と期待をし、努力を惜しまない決意をしました。
その数ヶ月後の1997年3月に関わったのが美佑紀ちゃんで、私が最も苦労した患者さんの1人でした。美佑紀ちゃんは当時8歳の可愛い女の子で、出生直後に先天性心疾患の診断で手術を受け、その後元気に成長しましたが、大動脈弁閉鎖不全症の手術を受けました。その術後から心機能低下が著しく、余命数ヶ月と循環器科の百々先生から宣告されました。両親が渡航移植を決断し、準備をしている最中にも美佑紀ちゃんの状態は徐々に悪化し、ICUに入室となり、渡米を予定していた1週間前に人工呼吸器が必要となりました。これでもう渡米は無理かと私は思いましたが、人工呼吸管理を開始してから渡米できるぎりぎりの状態まで安定しました。そうは言っても人工呼吸器管理と4台のシリンジポンプで4種類の強心剤を投与しているような重症な循環不全状態でした。その状態で循環器科の百々先生、麻酔科は宮坂先生と私と、看護師は小児病院OGの安行さんと武内さんの5人で心臓移植患者搬送医療チームをつくり、UCLAへJAL定期便で搬送をおこないました。渡米の直前2週間は渡米の準備や航空機搬送のJALとの打ち合わせの他、マスコミの対応など大変忙しく、直前の7日間は1日12時間以上をそのことに費やし、他の仕事は全く手につかない状況でした。1日に何回もマスコミから電話があり、その対応にも苦慮いたしました。無事に渡米した美佑紀ちゃんは当然重症患者としてUCLAの心臓ICUに直接入院し、移植のリストの一番に載りましたが、長時間の搬送の影響もあり、状態がさらに悪化し、UCLAでの集中治療もむなしく待機中に死亡、生きて日本の地を再度踏むことはなく棺での帰国となりました。移植医療の中でも渡航移植というかなり困難な道を登りつめ、UCLAまで到達しましたが、最後のハードルを乗り越えることができない悔しさを痛感しました。
ちょうどそのころ日本では臓器移植法案(中山案)が衆議院で審議され、日本でも臓器移植医療が29年間の闇をくぐり抜け、少し明るい兆しが見えてきたこところでした。渡米直前に母親の多恵子さんから、「法律ができたら、美佑紀は渡米しなくても良いの?」という質問があり、「美佑紀ちゃんは間に合わないけど、きっともうすぐ日本でも心臓移植で子どもが助かるようになると思うよ。」と返答した記憶があります。美佑紀ちゃんが亡くなって半年後の1997年10月に法律は施行されましたが、実際は15歳未満の臓器提供は不可能ですし、生前の本人の意思表示がなければ脳死からの臓器提供はできないという厳しい制限のある法律です。その後も私たちは思い悩んで渡航移植を決断してきた何組かのご両親のために、できる限りの努力を惜しまず誠心誠意手助けをしてきました。渡米するまでにこどもの状態は徐々に落ち込みます。そのたびに子供をより良い状態に保つため、ICUでの治療をおこない、また搬送の準備、長時間におよぶ搬送のための搬送チームをつくり、搬送機材の手配や移植患者受け入れ施設とのやり取りをおこない、まさに時間との戦いでした。医療面では患者さんができるだけ安定した状況で搬送できるように、また不測の事態にも対応できるように医師3名看護師2名以上の搬送チームによる航空機搬送を計画しました。また精神面でのサポートとして、渡航先の地元ボランティアの方々やすでに渡航移植を終えた患者さんを紹介したりし、慣れない異国の地での闘病生活を少しでも楽にしてもらうようなサポートも惜しみませんでした。
そうこうしているうちに心筋症の小児患者さんが他院からも紹介されるようになり、短い時間を有効的に使って、過去の経験をもとに重症患者さんが渡航移植できるようなシステムを作成しました。私が最後に渡米搬送した患者さんは2003年11月の結菜ちゃんで、生後5ヵ月の小さい可愛いい赤ちゃんでしたが、例外なく重症で人工呼吸器と3種の強心剤治療をしながら渡米しました。残念ながらUCLAのICUで待機中に重症感染症のため移植リストからはずれ、その後亡くなられたという痛恨の患者さんです。
私は今まで移植医療を通して多くのことを子どもたちやご両親や周囲の方々から学び、かけがえのない物や友人を得ました。亡くなられた患者さんの家族とは友人としての付き合いを続けています。また美佑紀ちゃんの渡航移植のときに成田までの搬送を自ら志願してくれた救命士の水野さんとは親交を深め、今は難病のこどもたちのサマーキャンプに毎年ボランティアとして参加していただき、子どもや家族のサポートをしていただいています。その水野さんは現在最も経験豊富な重症患者の航空機搬送のことがわかる救命士さんです。
現在私の移植医療とのかかわりは、当院でおこなっている小児の生体肝臓移植がほとんどになりました。今は大変気が楽です。患者さんは体重が4kgしかない胆道閉鎖症の術後末期肝硬変で重症のこともあります。劇症肝炎ですぐに移植しなければ救命できないこともあります。それでも心臓移植の時ほど待ったなしといいうことはありません。なによりも国内で生体移植が可能なため渡航する必要もなく、健康保険で治療ができるので募金活動も不要です。本人やご家族の負担は著しく異なります。
許先生が移植医療以外の治療方法として長時間使用できる補助人工心臓の開発ことを記事に載せていましたが、私も同意見です。今後は人工臓器つまり人工心臓や再生医療といった新しい切り口の医療技術の発展が必要でしょう。近い将来小児の脳死患者からの臓器提供が認められたとしても、おそらく救命できるこどもの患者数は限られています。わが国のみではなく、世界的な移植臓器の不足は否めない現状です。不全臓器を抱えて困っている小児患者の数と移植提供臓器数のアンバランスはわが国のみではなく世界中どこでも同じ傾向です。そのような現状では新しい方法を考えなければ、救命できる患者の数は増えないのは当然です。しかし、小児用の人工臓器も再生医療も確立するには何年もかかり、すぐには問題を解決してくれません。今現在どうしたら、一人でも小さい命を救うことができるかと考えると、やはり小児の脳死患者からの臓器提供の問題を早期に解決することが最優先でしょう。
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埼玉医科大学 心臓血管外科
許 俊鋭 先生
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平成18年9月現在、私どもの埼玉医科大学には20名の補助人工心臓装着患者さんが入院治療を受けておられます。この患者さんたちの大部分が心臓移植を待機しています。しかし、平成9年に臓器移植法が制定されてからこれまで9年間に移植のための心臓提供は36例にしか過ぎません。最近徐々に増加しつつあるとはいえ、年平均4例の心臓移植が実施されているに過ぎません。一方、現時点でおよそ80名の方が全国で心臓移植を待機されていて、そのおよそ半数がLVAS(左心補助人工心臓)を装着して移植を待機されています。わが国では1992年から心臓移植待機のためにLVAS治療が始まりましたが、重症心不全治療に携わっておられる循環器内科の先生方にLVASの有効性が認識されるにつれて、LVAS装着症例は徐々に増加しています。
最近では、年間およそ40例の末期重症心不全に陥った心筋症例に対してLVAS装着手術が実施されるようになりました。この40例のうち、本邦でのドナー心提供状況が変わらないならば4例(10%)しか心臓移植によって救命できないことになり、結果として90%の症例に対しては延命治療あるいは渡航移植を目的にLVAS装着を行っていることになります。しかし、私ども心臓外科医は、可能ならばこれら40例のLVAS治療症例全例を国内で救命したいと考えLVAS治療に取り組んでおり、現状との解離に患者さんやご家族同様に私ども心臓外科医も悩み苦しんでいます。心臓移植待機症例の増加とともに移植待機期間は欧米では信じがたいほどの長期となり、また、心臓移植に到達できた症例の移植までのLVAS補助期間は700日に及ぼうとしています。
さて、私たちはドナー心の提供が少ないからといって単に嘆き悲しみ諦めていて良いのでしょうか? 現時点でLVASを装着し、ひたすらドナー心が提供され移植手術を受けることに生きる希望をつないでいる患者さんたちと一緒にドナー心の提供を待つ以外、方法は無いのでしょうか。私たち医療関係者は患者さんに替わって、患者さんのご家族・友人・知人の方々と一緒に大きな声で患者さん達の窮状を社会に訴える活動力を持っています。また、議員さんたちに働きかけて、理不尽とも言える日本の臓器移植法を見直すエネルギーを議員さんたちに注ぎ込むことも可能です。また、患者さん・ご家族の希望があれば、欧米の心臓移植施設に患者さんを紹介し渡航移植の手伝いをすることも可能です。しかし、どこまで努力してもこのような重症心不全の患者さんたちを心臓移植治療だけで救命することは不可能であり、特にドナー心の提供が極端に制限されているわが国においては心臓移植に替わりえる代替治療を考える必要があります。
さて、慢性腎不全の患者さんが末期的腎不全に陥ったときに、腎臓移植の受け皿が無いからといって腎臓内科の先生方は血液透析の導入を躊躇されるでしょうか? 特に国民皆保険を柱にした高度医療福祉国家である日本においては、医学的必要性と患者さんのご希望に従い、腎臓内科の先生方はいつでも必要に応じて血液透析を導入していると思います。心臓移植度同様、わが国においては極めて限られた症例のみが腎臓移植の恩恵に浴しているという現状は変わりません。しかし、慢性腎不全患者さんたちは末期的心不全患者さんたちに比較して、それ程前途を悲観・絶望しておられるようには見えません。それは、血液透析治療が極めて良好な治療成績をおさめ、腎臓移植が受け皿に無くとも、多くの症例で20年以上の長期化生存が期待され、それなりの高いQOL(=社会生活)が達成されているからではないでしょうか?
心臓移植に替わりえる人工心臓が現時点で世界に存在しないことは確かです。世界に人工心臓の力を借りて6年以上生存している患者さんがおられます。しかし、これはチャンピオン記録であり、私どもの施設では一年以上生存されるLVAS装着患者さんは50%強であり、3年以上の生存はありません。欧米のようにLVAS装着後2〜6ヶ月以内に殆どの患者さんが心臓移植を受けることが可能な社会ならば、現状のLVASの性能(=耐久性)でも私どものLVAS患者さんの80%は心臓移植により救命されることになります。
しかし、わが国の現状では、心臓移植に到達するためには最低2年以上に亘り患者さんの命を支える人工心臓が必要です。現時点で、健康保険で使える補助人工心臓は30日使用を目標に開発された東洋紡補助人工心臓だけであり、30年前の開発時点では一ヶ月以上の連続使用は想定されておりません。それ故、東洋紡LVASで心臓移植に到達するのは大変なことで、もっともっと優れたLVASが必要です。最近わが国で開発された植込み型LVASにサンメディカル社のエバハート(EVAHEART)とテルモ社のデュラハート(Duraheart)があり、本邦ならびに欧州で臨床治験が開始されました。小型で強力なこの2つの補助人工心臓はわが国の重症心不全治療に革命的な進歩・発展をもたらす可能性があります。研究者たちは5年以上の生存が可能となる補助人工心臓の開発に全力を注いでいます。EVAHEARTはすでに国内で6例に植え込まれ手術死亡例は全く無く、3例はすでに一年以上生存しています。2例は家庭生活を送りながら心臓移植を待機していることはテレビや新聞でも報道されており、読者の皆さんはよくご存知と思います。すばらしい次世代の補助人工心臓と思います。
心臓移植はすばらしい治療です。多くの患者さんが心臓移植治療の恩恵により長期の生命予後を獲得され、社会復帰されると共に極めて高いQOLを持つ家庭生活を送っています。ただ、問題はドナー心の提供に大きな制限があることです。私ども人工心臓研究者の夢は、何時でも誰でも治療を受けることができる心臓移植に替わりえる極めて高い性能(=耐久性)を持つ人工心臓を開発することです。長期間の移植待機の間に亡くなる移植待機患者さんもたくさんいます。本邦では60歳以上の患者さんは移植登録すらできません。また、現状では15歳以下の小児例からのドナー心の提供は許されていません。心臓移植はどこまで発展しようと、末期的心不全に陥ったほんの一部の患者さんを救命することしかできません。
技術の進歩は日進月歩であり、おそらく10年以内に、補助人工心臓治療の5年生存率が50%を超えるようになると予測されます。それ故、心臓移植と人工心臓は車の両輪としてともに進歩・発展させなければならないと思います。しかし、ドナー心に依存する心臓移植治療の限界を考えた場合、心不全予防医学や優れた人工心臓の開発にもっともっと力を入れなければならないのではないでしょうか? 近い将来、慢性腎不全患者さんに対して血液透析が日常的治療として実施されているように、慢性心不全患者さんに補助人工心臓治療が日常的治療として取り入れられるようになり、全ての難治性心不全患者さんのために補助人工心臓治療による生命予後が20年を超える日が来ることを願ってやみません。
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日本大学医学部外科学講座心臓血管外科部門
瀬在 明 医師 |
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日本で臓器移植法が施行され8年が経過し、この間に行われた臓器提供は36件にとどまっています。一方では国内での移植をあきらめ、海外へ渡航する移植待機者、そして家族も少ないのが現状です。日本の移植医療を推進させるにはどうすべきか、本当に日本に移植医療は定着するのかなど、様々な問題を明らかにするために、平成16年7月3日に日本大学主催で、第1回臓器移植公開講座“ハートtoハート”を行い、そして今年も6月25日に第2回目を無事終了いたしました。本会は移植を知らない人に一人でも多く、移植医療を理解していただくことを最大の目的とし、開催しております。
私自身「ドイツ・バードユーンハウゼン心臓センター」に3年間留学し、日本からこられた患者さん、そしてご家族と一緒に異国での移植医療の大変さを痛感しました。何とか日本の移植医療を進めなければと実感し、南教授のご指示をうけながら、まず何かアクションを起こさなければならないと考え、私自身の力では多くのことをできる訳が有りませんので、まずできることをということで本会を開催しました。
現状のまま国内移植が進まず、渡航移植が増えれば、国際問題にもなりかせません。移植が日本に定着しない理由には宗教観の問題がよくあげられますが、それは事実ではないと考えます。最大の理由は国民が理解していないこと、つまり国が国民に十分説明していないことであると思います。海外でも日本同様ドナーカードというものはあります。しかし実際にドナーカード所持者からの臓器提供は10%以下といわれています。ほとんどは家族の意志にまかされます。臓器提供を拒否する人の意思を尊重するのは当然として守られるべきであると考えますが、今後は欧米同様、意思表示が不明の場合、つまりドナーカードを持っていない場合は家族の判断に委ねるという法案改正を推進することにより、深刻なドナー不足は多少改善すると思われます。さらに教育現場での説明や家族内での話し合いなどを増やすことで、より多くのドナー確保になると考えます。
日本では,今まで移植関連の研究会、討論会などは数多く行われてきました。しかし、それらの参加者は移植医療を知っている人であり、そこでいかなる討論を行っても、何らドナー不足は解消されません。海外でもドナー不足は問題となっていますが、移植医療に賛同するスポーツ選手、芸能人らが中心となって、移植医療を理解してもらうためのキャンペーン活動を定期的に行っています。それにより徐々に浸透し、移植医療が1つの医療として歩んでいます。
移植が受けられず亡くなっていく患者さんが数多くいること、また明日、自分自身や家族が移植を必要となる可能性があること、つまり移植医療が身近な医療であり、体験者の話から“移植をするとこんなに元気になる”という現実を一人でも多くの人に理解していただくために今後も本会を継続し、キャンペーン活動を行っていきたいと考えています。
"助かる命を助けられる国”にできればと思います。
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東北大学大学院医学系研究科
外科病態学講座先進外科学分野
里見 進 医師
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我が国において生体肝移植は2004年の12月末日までに約2600例が施行されています。健康な人にメスを入れることで成り立っている生体肝移植ですから、肝臓の一部を提供したドナー方々の健康については当然のことながら十分に配慮がなされるべきです。しかしながら、現実にはレシピエントの予後や成績に関心が集中するあまり、生体肝移植を支えてきた一方の当事者がおろそかにされていた感があります。
「死なさない 絶対に!!」―生体肝移植を選んだドナーと家族の葛藤―は実際にドナーとして肝臓の一部を提供した中津洋平さんが書かれた本です。家族愛の究極の姿としてとらえられ、一見、誰もが疑念を挟むことなく進められている生体肝移植にも、移植に至る課程には家族内で葛藤や逡巡、自責の念等の様々な迷いがあることが丁寧に描かれています。生体肝移植を進めてきた一移植医としては、複雑な思いを抱かずにはおられない内容でした。
一昨年に肝移植研究会が各移植施設からのデータを集積した結果からは、ドナーの皆さんには医学的な身体上の合併症だけでも約10%強あることが明らかになっています。これに手術前後の精神面や心理的な要素を加えると、合併症の頻度は更に上がることは間違いありません。また、昨年には生体肝移植ドナーの死亡例も報告されました。肝移植研究会ではこの事態を重くとらえ、生体肝移植ドナーの実情を、心理面や精神面を含めて総合的に把握するための調査を実施することになりました。
今回の調査では、調査の客観性を保てるように、アンケート内容を決める段階から心理学や社会学の専門家、ドナーの皆さんにも討議に加わって頂き、出来るだけ本音の部分が聞ける内容になるよう心がけたつもりです。また、調査用紙の回収と分析は、移植施設とは独立した専門家の手に委ねることにしました。調査の結果が今後の医療のあり方に反映され、インフォームドコンセントの充実やドナーの皆さんのケアー体制に生かされることを期待しています。
生体肝移植と脳死肝移植は車の両輪にたとえられてきました。この肝移植における生体と脳死の関係は、同様に生体からの移植が可能な腎移植や肺移植にも当てはまります。本来、この両輪は同じ大きさ、スピードで回ることを求められていました。しかし我が国ではいずれの移植においても片方の車輪だけがあまりにも大きくなり、それ故の弊害も大きくなる可能性がでてきております。生体からの提供による臓器移植には、その陰で大きな犠牲を払っているドナーの存在のあることを忘れることなく、もう一方の車輪―脳死からの臓器提供―を大きくするよう、今一度努める必要があると考えています。 |
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静岡県立こども病院循環器科
小野 安生 医師
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はじめに
1997年に臓器移植法が施行され、日本でも脳死臓器移植が可能となりました。しかし、この法律では15歳未満は臓器提供者になれませんので体の小さい小児の場合は、事実上脳死臓器移植を受けることはできません。こうした現実の中で、臓器提供を受けることができない小児で臓器移植を延命の手段とした希望される場合、残された手段は海外渡航移植しかないと考えるのは当然の流れと理解できます。1998以降5年間、国立循環器病センターで渡航心臓移植の現場に深く関わった者として、心臓移植について現状の理解の参考になると思われる点について述べて生きたいと思います。
1)心臓移植の適応とは
国立循環器病センターからの心臓移植をめざしての渡航はこれまで9人(2003年6月30日現在)です。1998年から2001年までは毎年1人ずつ、2002年は4人、2003年1人です。このうち6人が移植後元気に帰国しました。1人は現地で移植待機中、1人は心臓移植手術後現地で死亡、1人は手術前に現地で死亡されました。渡航までの手順としては、最初に心臓移植の適応があるか否かの判断が必要となります。成人では院内の移植検討会で適応と判断されたら日本循環器学会の適応判定委員会へ判定の申請を出します。適応と判定された後に、患者本人と家族に対するインフォームドコンセントを行なった後に移植ネットワークに登録し、以後は待機となります。小児の場合も将来のシステムのことを考え、同様の手続きをとるようにしています。
心臓移植の適応があるかないかということは、とても大事なことなのです。たとえば、拡張型心筋症と診断されてもすぐ心臓移植の適応とはなりません。重症の心不全を伴いしかも試みるべき治療が尽くされていることが必要です。
つまり心臓移植は最後の手段ということです。最近はβ遮断薬など新しい薬剤が心不全に効果があることが証明され、こうした治療法で心不全が改善する場合もあるため、すべての治療法が考慮されあるいは行われ、それでも心不全が軽快しない場合にはじめて心臓移植の適応となります。また、心不全が改善することもあるので6ヵ月毎に日本循環器学会の適応判定委員会へ最新の検査結果を報告します。もし心不全が改善していたら移植ネットワーク登録を中止することになります。さらに重症心不全であっても心臓以外に別個の臓器障害があれば、この場合も心臓移植適応になりません。成人の場合、たとえば悪性腫瘍(がん)の合併があれば、適応とならない可能性が高いと思います。また、心不全に伴って肝臓や腎臓の機能障害がある場合は、心不全の改善にともなって回復する可能性があると予想される場合には移植適応となります。
最後に心臓移植という治療法に対する理解、移植手術後の自己管理に関する理解と了解が必要です。小児の場合はこうしたことを理解することは難しい場合が多いのですが、小学生以上の場合はなるべく本人に説明するようにしています。現在心臓移植術後1年の生存率は約80%、10年の生存率は50−60%とされています。臓器移植という治療は他人の臓器が体内に入ることによって起こる免疫反応を抑えることが必要となります。免疫反応を抑えすぎると抵抗力が弱まり、感染にかかりやすくなります。このバランスを薬の調節によって行うことになり、怠薬(くすりの飲み忘れ)が致命的になることもあります。臓器提供者の善意を最大限生かすためには、本人の治療に対する情熱が必要となります。従って、成人の場合喫煙者やアルコール中毒者などは移植適応とはなりません。
2)渡航移植について
成人の場合、心臓移植の適応があり本人と家族のインフォームドコンセントがなされれば、移植ネットワークに登録され移植手術を待つことになりますが、臓器提供の可能性のない小児の場合は渡航移植に頼らざるを得ません。こうした状況で家族が強く渡航移植を希望されることも断念されることもあります。家族が渡航移植を強く希望される場合、移植施設の選定と移植施設への手術依頼が必要となります。外国といってもこれまで日本人の心臓移植がおこなわれたのは、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなどです。このうちイギリスでは、現在外国人を受け入れていません。アメリカなどでは、外国人を受け入れていますが制限があります。各施設の前年の心臓移植数の5%未満の外国人の移植手術が可能とされています。たとえは、UCLAなどのように年間100人近くの心臓移植が行なわれている施設では年間4人から5人とか、年間20−30人の施設では受け入れは1年間で1人ということになります。従って、渡航先施設の選定はとても大変です。問い合わせたら資料を送れとのことなので、資料を送ったら、5%ルールを理由に断られたこともあります。
こうしてなんとか受け入れ先の病院が決まるまで早くて1か月、おそければ3,4か月かかることもあります。その間に心不全は進行するし、家族と担当医はストレスいっぱいの日々を過ごすことになるのです。さて、デポジット(前払金)を支払ったら、出発日の交渉となります。航空会社との持ち込み医療機器についての交渉も安全基準の変更などにより前回と同じようにいきません。いよいよ出発ですが、長時間の飛行は心不全に悪影響を及ぼします。低酸素、低気圧などの状態により、心不全は悪化します。これまでの渡航9人中5人は明らかな心不全の悪化がみられました。我々の仕事はここまでですが、この後、本人と家族は慣れない土地での生活が待っているのです。現地ではボランテイアの方々がいろいろな援助を申し出てくださったりします。また、ここに至るまでもさまざまな大勢の人々が一人の子供を救うためいろいろな形で援助を下さいます。これらはすばらしいことですが、できうることなら早く国内でもこうした子供たちが手術を受けられるようになって欲しいと思います。
3)最後に 臓器提供について
心臓移植をはじめとする脳死臓器移植そのものに批判的な意見があることは知っています。さまざま価値観からさまざまな意見が出ることは当然のことでありこのことは、むしろ健全な社会の一つの指標とさえ言えると思います。臓器移植とは、延命のため臓器を必要とする人がいて、一方に臓器提供をしたいという人がいれば、そこで成り立つ医療ではないでしょうか。臓器は提供すべきとか、提供すべきではないとかいう問題ではなく、個々人が自分の価値観に基づいて判断すればよいことで、ドナーカードに意思表明を記載すればよいのです。意見が変わったら書き直せばいいのです。現在は「必要の医療」から「欲望の医療」ともいわれる時代になったといわれます。美容整形や一部の不妊治療などはこれまでの医療の概念からは外れてきているように思えます。また、極端な話クローン人間などの問題までいったらチョット待てというしかありません。心臓移植は現段階では「必要な医療」です。「先進国」の子供たちでその機会が奪われているのは日本の子供たちだけであるということは日本の大人たちにぜひ知っておいてもらいたいと思います。
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大阪大学名誉教授
松田 暉 医師
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我が国で脳死からの臓器移植は1997年10月の法律施行によってその道が開かれ、1999年2月高知での提供がきっかけになって、これまで20人の方が脳死下での臓器提供をされています。まず、提供された方々のご冥福をお祈りし、またその尊いご意志とご遺族のご協力に敬意を表します。
私は、大阪大学で心臓、肺、それに膵臓の移植に関与させてもらい、その尊い命のリレーの成功に実に沢山の人が携わり、また、多くの協力があって初めて出来るものであることを身をもって体験しました。心臓移植はこれまでに全部で13例行なわれ、前例生存し、ほとんどが社会復帰されています。退院された方々はそれまでの心不全や補助心臓から逃れて実に快適な生活をされています。移植医療の素晴らしさに改めて驚かされています。
しかし、4年以上たってこの数では、待機患者さんの数と切羽詰った状態からみて到底十分とは言えません。スタートは何とか円滑に出来たというのが実情でしょう。日本の臓器移植はまさにこれからが大事な時であります。このままでは、たまにしかめぐり合えないような、非現実的な医療のままで、次第に忘れ去られていくかもしれません。
移植を受けて元気になった人たちが社会に顔を出してその恩恵をもっとアピールすべきと指摘されています。これには時間がかかりましたが、最近やっと一部の方が勇気を持ってマスコミに顔を出すようになってくれました。大変よいことです。こういうことで皆さんが移植への理解を深め、多くの人が意思表示カードを持ってもらえるような雰囲気やシステム作りが大事です。健康保険証へのシールではなく1ページをこれに分けてもらうことを要望すべきでしょう。
その他定着のためには、提供施設を増やすこと、記載不備や脳死診断手順への合理的対応など、生前の意志が最大限尊重出来る運用方法の改善が現実の課題です。小児については、やはり法律改正がなされないと10Kg以下のような小さな子供さんは国内では不可能です。といって、いつまでも多額な募金で海外に頼ることは国際社会で通用しなくなるでしょうし、国の責任にも関るでしょう。幸い、救急医療の関係者からの大きな支援でこれまでほぼ順調に進んできた脳死臓器移植ですが、今はより定着に向かって推進させるための重要な時期にあることを、現場の関係者として改めて強く感じています
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東京女子医科大学腎臓病総合医療センター
寺岡 慧 医師
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命を支える重要な臓器が病に侵され、従来の医療では治すことができない場合には、臓器移植が唯一の根本的な治療法です。
末期の心不全には心臓が、呼吸不全には肺が、肝不全には肝臓が、重症の糖尿病には膵臓が、腎不全には腎臓が移植されます。移植される臓器は、死後に善意で提供される場合と、健康な親近者から提供される場合(肺、肝、腎移植)とがあります。
死後の提供では、脳死で提供される場合と、心臓が停止した死後の提供(腎、膵)があります。脳死での提供の場合は、脳死を受け入れ、臓器を提供する意思の表示が必要です。
臓器の提供も、臓器移植を受けることも本人と家族の意思で決めることで、法によって保障された権利です。 決して他人から強制されたり、干渉されたりすることではありません。
主治医から十分な説明を聞き、場合によっては他の医師や信頼する人に相談して判断してください。
臓器移植は善意に基づいた”命の贈り物”によって初めて成り立つ医療で、臓器提供の意思表示カードを所持することにより臓器を提供する意思を示すことができます。
また生きること、健康を取り戻すことは憲法で保障された基本的人権のひとつです。臓器移植の普及により一人でも多くの病に苦しむ方々が健康を取り戻せることを願ってやみません
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国立小児病院麻酔集中治療科
阪井 裕一 医師
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臓器移植を希望される患者さんと一緒に何回か米国へ行って来ました。
患者さんやご家族の大変さを痛感することは言うに及びませんが、よく外国人に、しかも50年あまり前に戦争をした相手に臓器を提供してくれるものだ、という感慨を毎回禁じ得ません。私は、自分自身や自分の家族、自分の仲間だけにあまりにも目を向けすぎているのではないか、と帰りの飛行機の中で自問します。
帰り着くとすぐに日常の中に埋没してしまいますが。
私は小児ICUで仕事をしているので多くの患者さんを看取っています。
米国での経験を思い出すと、自分の子供が亡くなろうというときに、他人の子供のことを考えられる姿勢に戸惑いさえ感じています。患者さんのご家族ばかりでなく、医療者側の姿勢にも違いがあるのでしょう。
先日読んだ本に、「思いやりのあるケア(compassionate
care)」を「方針」として掲げている米国の病院の話が出ていました。
私たちも、このような一見当たり前のようでいてこの国で実現できていないことから、まず声をかけて始めなくてはならないでしょう。
私の周囲から始めることが、ひいては移植医療を良くすることにつながるのではないか、と期待しています。臓器移植法案の改正も必要ですが、日常のケアを見直すことが医師に求められていることだと思います
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横浜市西区医師会副会長
森山 昌樹 医師 |
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世界に誇る技術はあるのに、脳死は人の死であるか否かについてのコンサンスの確立に長い時間を費やし、更には臓器移植法が成立するまでの稚拙な段取りが色々な面での立ち遅れにつながっているのはご存知の通りです。
やっとスタートした「臓器移植法」の運用指針では、脳死で臓器を提供できるのは15歳以上とされています。
子供の心移植は1967年に行われたカントロビッツの症例が第一例です。
現在までアメリカでは4000例以上の小児心移植が行われ、全体の1年生存率は95年以降80%、7年生存率は75%と進歩向上しています。
対象とされるのは死に至る病である先天性左心室不全や心筋症です。術後使用される免疫抑制剤の進歩によって、その成績は間違いなく向上することが予想されます。
子供サミットに集まった人々、それは臓器移植を受けて社会復帰を果たした人だけでなく、それを待っている患者達、外国に行って移植待ちをしながら亡くなった子供の母親達、またその人々を支援するために集まった人々の瞳は、あくまでも美しく澄んでいて、人の生命の尊さを真摯に考えていこうとする情熱の迸りが見られました。
生命維持装置の空虚な残響に空しく脳死状態の患者の手当てを続けてきたアスクレピオス子にとっては、こういった世論の高まりを心強く感じざるを得ません
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千葉県こども病院循環器科
岡嶋 良知 医師 |
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私自身、移植医療に関わったのは初めての経験で(骨髄移植の下働きは大学にいた頃にやりましたが。)、とにかく分からないことだらけでした。
しかし、実際に関わって、心臓移植は今さらながら大変に有意義であることが確認できましたし、率直に、この治療が広まればいいと切望しております。
今回の活動では、私の患者の募金活動が本当に予想以上にスムーズに運び、事務局を引き受けてくださった方々や皆様の暖かい御支援の賜と感じ入っております。
とは言っても、今後もいつまでも今回のようにスムーズに話が運ぶとは限らず、患者さんやご家族の負担を考えますと、移植が実現する機会が少ない上に、未だに脳死基準の判定すらスムーズに行かない場合が多く、医療不信を招きかねない状況にあると思われます。
そのような状況で、小児の脳死を認めてもらうためには大きな障害になるのではないか、と危惧しております。
やはり、根本には国民の医療機関、医師に対する不信感が有るものと推察されます。
また、実際、医療側においても、今日まで、日本の一般的な医師は、脳死移植医療に関わる機会が殆どなく、真剣に考える必要性が有りませんでした。
そのため我々がスムーズに移植医療を行える準備を十分にできていないのが、実情でしょう。
まだまだ不勉強です。柳田邦男氏が最近出した「緊急発言 いのちへT」に、救急医療の現状として、救急医療体制や脳死患者への対応の不十分さを指摘しています。
言われればもっともで、臓器提供側に対する医療体制があまりにも未整備のままで、移植医療を推進することに疑問が有りそうです。
このような意見を認識して、移植医療に対する国民の理解が進むことが非常に大切であると痛感しています。
私自身、移植しか助かる道はない、と宣告した患者さんを何人も診てきましたが、海外移植までを真剣に考える患者さんがいなかったので、本当に貴重な経験をさせていただいたと思っております。
今後は少しずつでも、まずは勉強してと思っています。
貴哉君が帰ってきたら、やはり小生が診療したいところですが、ただ、知識不足はやむを得ず、移植医療の先輩に相談していかないといけません。
医療側も体制をしっかりと考えないと、せっかく多数の方々から頂戴した善意が無駄になってしまうという緊張感を感じつつ、戸惑いつつ、彼の帰りを待っているところです。
心臓移植は御協力をしていただいた方々の善意に支えられた素晴らしい医療だと思います。重い心臓病で困っている国内の子供たちにも、早く実現することを願っております
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